水田の役割

@ 水田は自然の万能ダム
 土と水と太陽と空気と、自然の恵みを利用してお米を育てる水田は、私たち日本人の命の源です。そして自然もまた、水田によって命を守られています。ご存知のように、日本は雨が多い国です。大雨が降ると雨水が一度に川に流れ込み、洪水を起こす危険があります。
水田は雨水を貯める天然のダムのようなものです。しかも底が土なので、溜まった雨水は少しずつ土にしみ込み、半分は地下水に、そして半分はゆっくりと川へ流れていきます。水田はこうして洪水を防ぎ、川の水量をコントロールしてくれているのです。
 日本のすべての水田における経済的評価で、日本の水田における雨水の貯留可能容量は合計で60億トンとも言われています。
 これは、全国の水田面積を約300万ヘクタールとし、うち半分は整備済みで30センチまで貯水することができ、残りの半分は未整備で10センチの貯水能力があるとみなして計算したものです。すべての水田が整備されたとすると、90億トンの貯留が可能です。
 これから水稲栽培のために必要な湛水分量を差し引いた51億トンが全国の水田の総貯水容量です。これは黒部ダムの貯水容量の30倍に相当します。日本農業研究所によると、この全国の水田の総貯水容量をダム建設費の償却費と維持費に換算すると、年6兆1200億円となり、1アールあたり約20万円に相当することになります。
 さらに山地の多い日本では、雨による土砂崩れの問題も深刻です。斜面に水田があれば、田の周りを囲む畦(あぜ)が壁となり、土砂の流出も防げます。まさに水田は、自然と持ちつ持たれつ生きてきた日本人の智恵の結晶といえるでしょう。

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  『水田のはたらき』関矢信一郎著 家の光協会 1992年を参考にし、一部抜粋しています。

A 水田は本来、多くの命のゆりかご
 人が生きていくためには、食糧はもちろん、水と空気が欠かせません。この水と空気を守るのも、本来の水田の大切な役目です。たとえば、水は、まず田の中を流れているうちにゴミなどが沈殿し、地下へしみ出るとき土の層が天然の濾過フィルターとなり、飲み水として適した地下水に浄化されます。田の上では稲が光合成を行い、新鮮な酸素を送り出します。つまり水田は、お米をつくりながら浄水器と空気清浄機の役目も果たしているのです。また暑い夏の日は水をたくさん蒸発して気温の上昇を抑え、クーラーとしても働きます。さらに蒸発した水は雨雲をつくり、恵みの雨として再び田に還ります。人がつくったものとはいえ、水田はもはや大自然の生態系の一部なのです。そして人の暮らしと自然を守りながら、双方の仲を取り持ってくれています。
 また、子どもの頃、田んぼへ出かけてはオタマジャクシやザリガニをつかまえた…という経験をお持ちの方も多いと思います。水田は、メダカやドジョウなどの魚、タガメなどの昆虫類、タニシも潜む生き物の宝庫でした。稲には稲を食べる虫たちがつきます。それをカエルやトンボが食べ、このトンボや水の中の魚を狙って鳥たちもやってきます。水田を舞台にたくさんの命のドラマがそこにあります。そしてこの舞台には四季があり、微妙に情景が変わります。たとえば、トンボは秋に水の抜かれた田んばに卵を産みつけ、春、水が入ると卵が孵化してヤゴになり、夏には成長した稲の茎につかまって羽化する…という具合です。水田を巡って繋がる命の環(わ)がそこにあるのです。
 水田は日本の自然環境として重要な役割を担い、他の自然環境と複雑にからみあい、調和発展してきました。そして今では,水田を失うことは日本の豊かな自然の全てを失うといってもよいほど、水田は日本にとってなくてはならない存在になっています。
 けれども一方で、戦後の農業の近代化、化学化に伴って、水田は昔の面影からは遠ざかり、そこにはかえるやトンボや鳥たちの姿がほとんど見られなくなってしまいました。それには、農薬や除草剤、化学肥料が大きな影響を与えています。そして、先ほど述べたように、化学に頼ることによって、本来環境を浄化する役割があるはずの水田が、全く逆に汚染の原因になってきています。

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